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「あと1kバイトなんだがな」 「つまり、千回甘噛みしろって事かしら?」 「そのバイトじゃねえよ!? っていうかなんで甘噛みなんだ」 「それはもちろん、阿良々木君が喜ぶからよ」 「戦場ヶ原……」 「股間についている物をガブっといけば、阿良々木君はM喜ぶわよね」 「喜ばねえよっ!? そして甘噛みじゃなくなってる!」 「あら、これはとんだ期待はずれね。阿良々木君のMっぷりなら、 私の噛み付き攻撃など、テリーファンクのようにネバーギブアップだと 思っていたのに」 「お前はブッチャーだったのか……」 「そんな。私は人間爆弾なんて酷い作戦、とても実行できないわ」 「そっちのブッチャーじゃねえ! ……というか、分かる人、いるのか?」 「多分、某乳揺れゲームを昔からやってる人なら大丈夫でしょう」 「あれは乳揺らすゲームじゃないんだがな」 「で、何の話だったかしら? 阿良々木君が私の乳首を甘噛みしたいと 言う話だったわよね」 「なんでそうなるっ!?」 「あら、私の乳首を甘噛みしたくないの?」 「あー、それは、えっと……」 「でも、ごめんなさい。まだ心の準備が出来ていないので、お断りさせて もらうわ。ごめんなさいね、阿良々木君の乳首を甘噛みしたい気持ちを ないがしろにしてしまって」 「そんな気持ちはあるけどねえよっ! ……話戻ずぞ」 「そもそも、戻すような話が存在していたかしら?」 「それを言われると……まあ、とにかく、スレが後1kバイトだっていう話をだな……」 「なら、その話ももう終わりね」 「へ?」 「このレスの容量、1kを越えたわ」 「……」 「それでは、皆様、次スレでもお気軽に私のあーんな痴態やあーんなデレ、 あーんな残虐行為をせっせと描写しやがってくださいませませ。あでゅー」 「……できれば、残虐行為は無しにしてくれ……」 戻る
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僕は夜中にふと目を覚ました。 何か気配がするなと思って身体を起こし、部屋を見渡すと忍がこそこそとしているのが目に入る。 「忍?」 呼び掛けるとびくっと身体を震わせてはじかれたように忍はこちらを振り向く。 僕はそれを見て驚いた。 服を着ていなかったとか突然飛びかかってきたことにではない、その唇の端から赤い筋が流れていたことにだ。 まさか誰かの血を吸ったのか!? が、問い質す間も無く僕はベッドに押し倒される。 このまま僕も血を吸われるのかと身構えたがそれは杞憂だった。 いや、本当に杞憂かどうかはわからないが。 なにしろ身体が折れそうなほど力強く抱き締められたからだ。 いくら忍が細腕で身体が柔らかかったとしてもそこは怪異の王である吸血鬼、物凄いパワーだった。 「し、忍っ、ギブギブ、ギブアップ!……んむっ」 思わず叫んだ僕の口が忍の唇によって防がれる。 すぐにぬるんとした舌が入ってきて僕のに絡みついた。 「ん……?」 この味は……。 僕は力づくで忍を引き剥がし、先ほどまで忍がいたところに置いてあるものを確認する。 「お前、ワインなんてどこから…………むぐっ」 隙を突かれてまた唇が塞がれた。 本来吸血鬼は酒にも強いはずだが、小さな身体の影響か明らかに忍は酔っている。 忍の口内に残っていたワインが唾液ごと流し込まれ、僕は思わずそれを飲み込んでしまう。 吸血鬼は酒に強くとも僕自身は酒に強くない、未成年だから当たり前といえば当たり前なのだが。 すぐに身体中がかっと熱くなり、変な気分になってくる。 僕は忍の背中に手を回して抱き締め、もそもそと服を脱いで忍の身体をまさぐりだした。 「んふっ……んうう」 舌を絡ませたまま忍はとろんとした目で声を漏らし、その幼い身体をこすりつけてくる。 「ん…………」 窓から日が差してきて僕は目覚めた。 何だか頭がガンガンする。風邪でもひいただろうか? 起きようとすると、僕はいつの間にか裸になっており、忍が抱きついているのに気付く。 昨夜の記憶は全くないが、察するに忍が勝手に僕のベッドに侵入したのだろう。 そういえば身体が少し気だるい感じもするし、どうやら何かされたらしい。 やれやれ、とため息をつきながら僕は忍を起こさぬようそっとベッドから抜け出す。 傍らのワインの瓶を見て僕は寝ている忍に呟いた。 「酒は呑んでも飲まれるな、だぞ」 戻る
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末路(順)《後編》 ◆ ◆ ◆ 三階の廊下の端、羽川翼は物陰に身を潜め、エレベーターの前にひとりで立っている奇野頼知の様子を窺っていた。 奇野は丸腰で、武器を隠し持っている様子もない。無防備に両手を腰にあて、何かを探すかのように視線を彷徨わせている。いかにも落ち着かない風でいるのが遠くからでも見てとれる挙動だ。 羽川は身を潜めながらも臨戦体勢だった。右手に抜き身の状態の日本刀を構え、隙さえあればいつでも斬りかかれると言わんばかりに殺気に満ちた視線を放出している。 ただし、相手にそれを気付かせない程度に。 「……あー、」ややあって、奇野がおもむろに声を上げる。「そろそろ出てきてもいいんじゃねーかー? どっか近くに隠れてんだろ? さっきからずっと、こそこそと俺をつけ狙ってる奴。あの人形ぶっ壊されて困ってんのかもしれないけど、残念ながらこっちには油断も同情もないぜ。いい加減、観念して出てこいよ」 空虚に向かって語りかけるような声が、静かな廊下に反響する。羽川にも当然、その声はよく聞こえてくる。「あんまり逃げ隠れしてると、男を下げるぜ」 突っ込みどころではある台詞だったが、この場で突っ込みを入れることのできる人間などいるはずもない。静寂の中に空しく吸い込まれてゆくだけである。 「……」 やっぱり、そう安々と油断はしてくれなかったか――自分が隠れ潜んでいることが相手に知れているのを奇野の言葉で知り、羽川はむしろ安心する。相手が自分の存在を知った上で行動しているのか否かがわからないことは、逆にプレッシャーになり得るからだ。油断している風を装って誘いこむような作戦を取られてはたまらない。日和号を失った今、直接戦闘となれば今度こそ自分の身を投じるしか方法はないのだから。 子荻の予想したとおり、羽川は奇野たちからそう遠くない場所で、日和号――微刀『釵』を操っていた。奇野を仕留めるのにあくまで日和号を使おうとしたのは、慎重を期したというよりもむしろ、日和号の扱いに慣れるために操作に徹した、というほうが主な理由としてある。その段階で、このゲームにおける支給品の中でも有数の利便性と戦闘力を誇る武器を早々に破壊されてしまったことは、羽川の油断が原因といっていいだろう。子荻の動きに羽川が気付いてさえいれば、一人も仕留められぬうちに破壊されるなどという事態だけは避けられたはずである。 残る武器はひとつだけ。 右手に構えた日本刀。日和号と同じ完成形変体刀が一振り、斬刀『鈍』。 加えてもうひとつ、武器を失ったこと以外に警戒すべき要素が、羽川にはあった。 銃器の存在である。 建物全体に響いたであろう四発の銃声が、羽川に聞こえなかったはずはない。それでなくとも、エレベーター内に放置された日和号の残骸を調べれば、それがどんな武器によって破壊されたのかはある程度予測できたことだろう。 日本刀しか武器のない今の羽川にとって「遠距離攻撃」という属性は、最も警戒すべき対象のひとつである。射程もさることながら、恐るべきはその殺傷能力だ。どんな銃器かはっきり見たわけではないが、生半可な威力のものでないことはほぼ間違いない。日和号が一瞬にして廃品にされたことがいい証拠だ。生身の羽川に、銃弾が致命傷の要因にならぬ道理などない。 しかも、こちらは一人で相手は複数名。 戦力だけで言えば、羽川は圧倒的に不利な立場にいる。 「あくまでだんまりで通すつもりかー? ……ふん、黙して伏すのが美学ってタイプなら、あんま気は合わなそうだな。沈黙は金、雄弁は銀――ってか?」 その使い方は誤用だ、とは羽川は言わない。奇野の言うとおり、黙して伏すだけである。 ――しかし不可解だ、と羽川は思う。相手の行動を見るに、あの男を囮に羽川を誘き寄せて陰から仲間が仕留める、といった風の策をとっているように見えるが、今の段階で選ぶ策としては非効率過ぎではないだろうか。 日和号を失ったことでこちらの攻撃手段が半減したことは、向こうも承知のはず。それにしては、向こうの攻めがあまりにも消極的すぎるというか、戦力の使い方が大人しすぎるように思える。 こちらがどんな武器を所有しているのか分からないがゆえに警戒しているのだろうか――と一瞬思いかけたが、羽川はすぐにその理由を推察した。この建物は今、羽川たちの手によって――ほとんどが西東天の手によるものだが――完全な牢獄と化している。ここから外に出るためには、この密室を作り上げた人間を生かしたまま確保し、扉の解錠方法を聞き出す必要がある。 つまり相手は、こちらを『殺すために』慎重になっているのではない。『殺さないために』、慎重にならざるを得ないのだ。 その推察が正解だとすれば、当然そこは付け込むべき大きな隙となる。殺すことを前提にした方と殺さないことを前提にした方では、縛りの重さが格段に違う。向こうが慎重になればなるほど、こちらの生存率は高くなってゆく。 存分に石橋を叩いてくれればいい。 その音を頼りに、こちらは闇討つ。 想操術に侵された脳を、羽川は回転させる。殺し合いの渦中にふさわしい、歪な戦闘意欲に塗れた思考をそこに展開させる。 殺意。 創られた殺意。 植え付けられた殺意。 激情でなく、冷徹で、機知的で、揺らぎのない機械的な殺意。 さながら、微刀『釵』のような。 「……」 相手がこちらを誘い出そうとしているのなら、まずはその目論見に乗ったふりをして、相手の行動を誘発させる。囮ではない方の敵を、逆に誘い出してやろうという企みだ。 奇野たちがここに到着するより前に、羽川はこの施設内の建物を丹念に見て回り、ほぼすべての構造や部屋割りを記憶に収めていた。相手が銃による「狙撃」を狙っているのだとしたら、狙撃手が銃を構えて潜んでいるであろう場所は、すでにある程度、当たりをつけている。その場所に意識の焦点を置いておけば、不意の一撃を喰らわされることはないはずだ。 そもそも相手の得物が銃だからといって不利になるかといえば、そういうわけでもない。遠距離武器という性質が厄介であることは事実だが、それは屋外での話だ。稼げる距離の短さ、遮蔽物の多さという点において、この建物内部での銃器の有用性は著しく減少する。 だからこそ、今ここで確実に仕留めておく必要がある。 目を閉じ、呼吸を整え、斬刀『鈍』を両手で構え直す。 探り合いの時間は、もう終わり。 ここからは、殺し合いの時間。 殺さなければ、生き残れない。 生き残るため、殺す。 自分のために、自分以外のために。 ――私はまだ、死ぬわけにはいかない。 絶対に。 神経を極限まで尖らせ、再び目を開いた、その瞬間。 ずん、と。 鈍い衝撃とともに、全身に異様なまでのぶれを感じる。 ついで、焼けるような激痛。 そして銃声。 「……っ!?」 急転直下。 不意の一撃が、いとも容易く羽川の身体を捉えた。 ◆ ◆ ◆ 時間にしておよそ一時間前。 第二研究棟の屋上にいた羽川と西東は、施設の入口である鉄扉を抜けてやって来る三人の姿を見ていた。 山道を通ってここへたどり着いたばかりの、萩原子荻たち御一行様の姿である。 「三人――ですね」 羽川の表情は、傍目には冷静であるように見える。 「ふん……こりゃあ中々に、面白いめぐり遇わせだな」 「何がですか?」 「驚くべきことに、三人とも俺と顔見知りなんだよ。――まあ、うち二人は俺が一方的に見知ってるだけかもしれんがね。ただ、あのカチューシャの奴に関しては本当の意味での知り合いだ。偶然にしては良い感じだな」 羽川が『まとも』であったなら、この場所で奇野たちと戦闘になることはなかっただろう。 二人と三人、合わせて五人の異色パーティーが完成していたに違いない。 「狐さん」 「ん?」 「さっき、その気になればこの施設内のシステムくらいなら弄れるって言っていましたよね。――その技術で、ここの各建物のセキュリティを意図的に作動させて、すべての扉をロック状態にすることは可能ですか?」 「ああ……? 可能っちゃ可能だがな。そんなことしてどうすんだ」 「私に考えがあります」 実際には考えと呼べるほどの考えがあるわけではなかった。 『獲物を逃がしてはいけない』――内側からの命令に、ただ機械的に従っただけのこと。 密室を作り上げたのは、実質的には羽川翼だったのである。 「――――これで一応、施設内の扉はすべて制御されたぜ。パスワードが入力されねえ限りは絶対開かん。この程度の操作ならちょろいもんだ」 「入口はひとつ、これで中からの脱出はほぼ不可能――ですね?」 「そうなるな――しかしどういう組み合わせだありゃ。死神に呪い名に、よりにもよって『策師』までいるたあ……気味悪いくらいに気の利いた面子だな。神様だか魔法使い様だか知らんが、随分とまあ粋な真似をなさる――いやむしろ、縁が『合った』と解釈すべきなのかね、これは。足に任せてたどり着いた場所とはいえ、ここに来たのは正解だったようだな――」 羽川の異変に、西東は気付かない。 気付いていたとしても、結果は同じであっただろうが。 「――――殺せば、」 羽川翼の恐るべきところは正にそこだった。時宮時刻から直接に想操術をかけられてなお、傍から見れば正気を保っているとしか思えない状態を維持することを可能とした、圧倒的な精神力。 脳内でリフレインするのは、診療所で交した西東との会話。 ――殺せば、それでいいんですね。 ――ああ、そうだ。 ――ここでは、それが正しい。それこそが正答であり、正当だ。 その会話が引き金となったのかどうか、ここではっきり断定することはできないが―― 「殺せば、それでいいん、ですね――」 「あ?」 西東が振り返ったときには、斬刀はすでに振るわれている。 セキュリティの解除方法を知る西東を殺してしまえば羽川自身も外に出られなくなるという当たり前の事実にも、今の羽川の思考は及ばない。 暴走、無差別、無感情。 時宮の想操術の前に、敵も味方もありはしない。 かくして時宮時刻の打った布石――狂戦士の火種は、彼の意思とは関係なしに狂い咲き、ここにおいて一人目の犠牲者を出す。 羽川翼、暴走開始。 【西東天 死亡】 【残り 40名】 ◆ ◆ ◆ おかしい、と羽川は思った。 思ったが、唐突すぎる展開のあまり、何がおかしいのか――何をおかしいと思えばよいのか、それが一瞬わからなかった。思考が無重力になり、地に足の付く感覚を喪失する。 だが結局、一番最初に疑問に思ったことは、 (どこから……撃ってきた?) だった。 狙撃という手段は予想していた。予測していたからこそ、それが可能だと思える場所には、あらかじめ細心の注意を向けていたはずだった。 そもそも羽川は、身を隠していた状態からまだ一歩も動いていない。 この奥まった場所は、フロアの向こう側からは完全な死角になっている。 撃てるはずがないのだ。 「ぐ……っ!」 激痛に耐えながら、倒れこむようにして物陰から廊下へと転がり出る。左腕が動かない。貫通した銃弾は左肘の関節部を完全に破壊していた。右半身の力でどうにか立ち上がり、奇野のいる方向へ意識を向ける。 奇野は羽川の姿を視認するやいなや、上の階へと階段を駆け上がっていってしまった。 逃げた? いや、狙撃の巻き添えを食わないよう退避したのか。 そう思った矢先、二発目の銃弾が撃ちこまれてくる。咄嗟に身体の位置をずらしていたため、弾丸は床へと被弾する。 立ち止まるのはまずい。そう思い、そのまま廊下を全力疾走し、階段の辺りまで一気に移動する。デイパックを隠れていた場所に置いたままだったが、どちらにしろ右腕一本では斬刀を握るだけで手一杯だ。 二発目が撃ちこまれたことより、羽川はそれがどこから放たれたものか今度こそ理解する。 上である。 真上も真上、天井の向こう側から、銃弾が降り注いできたのだ。 「上の階から……? そんな、どうやって――」 思考を重ねたところで、羽川に答えを出すことはできない。 子荻にとって日和号の存在が予測不可能だったように、子荻の持つ簡易レーダーもまた、羽川にとって予測不可能の代物だったのだから。 子荻の企みにより、奇野は屋上で話を聞くまで、この建物には自分たち以外に誰もいないと思いこんで行動していた。それを見ていた羽川にとって、自分の存在が具体的な位置までとうに知られていたなど、予測も想像もできるはずがない。 子荻の持つレーダーの画面は、支給品の地図と同じく真上から見た形の平面図になっており、首輪を身につけた参加者のいる場所を光点で示すようになっている。羽川の位置を表す点と子荻を表す点、そのふたつがちょうど重なる位置に立てば、ぴったり相手の真上に立つことができる。 理屈の上では確かに、それで相手の姿が見えない状態での銃撃は可能となる。しかし当然、それでは狙いなど全くつけられないし、命中するかどうかも運次第のようなものだ。ましてや「相手を殺さないように」撃つことなど、不可能以外の何物でもない。 この建物が密室と化している以上、相手は羽川から扉の解錠法を聞き出す必要がある。奇野が囮役として羽川に呼びかけてきたことで、自分を殺さずに捕えるための方法を選んでくるつもりなのだと確信した。 だからこそ、羽川はそこにつけ込むつもりでいた。 『だからこそ』、相手が死ぬかどうかも曖昧な手段を、子荻は選んだ。 あくまで敵の裏をゆく策。 相手が裏をかくなら、こちらは更にその裏を。 まるで、それが唯一のこだわりであるかのように。 これが『策師』――萩原子荻。 「くっ……!」 羽川の立場はすでに追われる側へと転じていた。相手の攻撃手段も分からぬまま、階段を下の階へと立ち止まらずに駆け降りる。玉砕覚悟で上の階へ行くことも考えたが、それは相手の思う壷だろう。出合い頭に一瞬で狙い撃ちにされてしまう。 銃撃から逃れなくては。 その思考だけが今の羽川にはあった。 一階まで駆け降りたところで、上の階から羽川を追って駆け降りてくる足音が聞こえてくる。おそらくは銃の持ち手だろう。あくまで逃がさないつもりか。 「――どこへ逃げようと無駄ですよ」 足音に続いて、遠くから鈍く響き渡ってくるような声が聞こえてくる。恐らくは、上の階から発されているであろう声が。 「――残念ながら、あなたの居場所は完全にこちらの手中です。階下に逃げようと、物陰に隠れようと、私の銃弾はあなたを逃がさない。これ以上の逃げは時間の無駄以外の何物でもありませんよ。お互いのために、そろそろおとなしく投降しては頂けませんか?」 丁寧な口調ではあったが、内容は完全に脅迫だった。殺す気で撃っておいて、「お互いのため」とは言いも言ったりである。 文字通り、上からの物言い、といったところか。 その呼びかけを振りきるように、廊下の端へと全力で駆ける。あくまで逃げきるつもりですか、と言わんばかりに放たれた三発目の銃弾が、右脚の肉をわずかに抉る。火傷のような痛みが走るが、足は止めない。徐々に増していく左腕の激痛が、右足の痛みをすぐに掻き消す。 銃弾から逃れるための方法を、羽川は走りながら即興で考える。思い付いたのは、単純に銃弾が届かない場所へと逃げ込むことだった。この建物は四階建てだが、当然それぞれの階の構造は同じようにはできていない。入れない部屋もいくつかあり、各階により異なるデッドスペースが存在する。 つまり、一階と二階で構造にズレのある場所に逃げこめば、物理的に相手はこちらの真上をとることはできなくなる。 各階の構造は、奇野たちがここに到着するより前に、すでに細部に渡って記憶に収めている。真上からも、相手が一階に降りてきた場合にも死角になり得るような場所を、羽川はすでに脳内でピックアップしていた。 四発目の銃撃がこないうちに、一階の奥、物置のような小さなスペースにたどり着く。扉を斬刀で真っ二つに斬り裂き、体当たりするように扉ごと中へと飛び込む。さながら猫のような俊敏さだった。 ここならば、角度からいっても上階からの銃撃は不可能。一階からも遠くからでは狙えない。仕留めるためには、向こうから近づいてくるしかない! ――しかし、その読みもまた浅かった。 思考する時間がなさ過ぎた、というべきか。 デッドスペースの存在には、子荻もとうに気がついていた。そして羽川がそこに逃げ込むこともまた予想の範疇。――いや、むしろ最終的にそこへと逃げ込むように、子荻のほうから誘導していた。 密室という条件を利用した「追い込み」こそが、子荻の真の狙い。 そして追い込んだ先には当然、先回りの一手。 戦闘開始よりはるか前に敷かれていた、止めとなる最後の一手。 「王手――というわけでもないでしょうけど、これにて一名脱落、ですかね」 「……!?」 その声に振り返るよりも速く、後頭部に受けた衝撃により、羽川は昏倒していた。 ◆ ◆ ◆ 「終わったか?」 奇野が一階に降りてくると、そこにはすでに全員がそろっていた。奇野以外の、この第二研究棟内に存在しているすべての面子が。 ひとりは無骨なライフルを肩にかけ、長い黒髪を手櫛で整えている少女。 「――辛勝、といったところですね。三対一でここまで梃摺るとは思いませんでした。ずいぶん無駄弾も撃たされましたし」 萩原子荻は、そういって少し不満げな表情を見せた。あまり納得のいく結果ではないらしい。 「結果オーライでしょう。こちらは一切無傷で済んだんですから。――あ、お疲れさまでした奇野さん、これお返ししますね。結局使わずに終わりましたけど」 緑色のツナギを着た長身の少年、石凪萌太は柔和な笑顔を浮かべながら、無造作に持っていた一対の武器――トンファーを奇野に差し出した。 「別に持っといていいぜ。俺はどうせ使わない」 「そうですか? では、遠慮なくお借りしておきます」 そういって、トンファーを自分のデイパックへと収める。武器を扱うのに慣れている風の手付きだ。 奇野が囮役で、子荻が追い込み役だとするなら、その最終地点で止めを刺すための伏兵、待ち伏せ役を務めたのが、この石凪萌太だった。務めたとはいっても、実質的にはただひたすら小部屋の中で敵がくるのを待つだけの地味な役割だったのだろうが。 探索開始の前、奇野は全員が分散することに疑問を感じたが、実際には分散などしていなかった。 子荻が第一棟からすぐ移動してきたように、石凪もまた同じく第三棟から、始めから全員がこの第二研究棟に集まって、奇野の預り知らぬ間に包囲網が用意されていたのだ。 ひとりの敵を仕留めるための、包囲網が。 「……で、こいつがその――敵か」 子荻と石凪の傍らに横たわっている眼鏡の少女。説明されるまでもなく、この少女がつい今まで奇野たちを攻め立て続けていた張本人なのだろう。 「女だったのか……しかも全然武闘派な風には見えねえな」 変わった意匠の巫女装束に、頭にはなぜか猫耳。何かの冗談にしか見えない。 武闘派に見えないのは、目の前でライフルを携えているこの女子高生とて同じことだが。 「武闘派ならそもそも、あの人形に頼りっぱなしということはなかったでしょう。どんな武器を持ってるのか一応警戒していましたけど、日本刀ひとつだけでした。直接戦闘に自信がないからこそ、あそこまで慎重になっていたんだと思います」 その慎重さが仇になった、というわけだ。 ……いや、一概に慎重だったとは言えないだろう。黙って逃げるか隠れるかする選択肢があったにも関わらず、この少女はこちらが三人だということを知った上で、たった一人で戦闘を仕掛けてきたのだから。 慎重どころか、好戦的もいいところだ。 どちらにせよ、この少女に自分らが危うく殺されかけたという事実に変わりはない。子荻と石凪はどうかわからないが、奇野の場合は本当に紙一重のところだった。石凪の言うとおり、全員が無傷で済んだのは幸運な結果といっていいのかもしれない。 「囮に犠牲はつきものですよ、奇野さん」 「一回殺されてみやがれ」 切実な意見だった。 「……で、どうすんだ、これから」 「出入口は……まだ封鎖されたままでしょうね」 やはり優先すべきは、この密室の開放か。しかし解錠法を知る人間は今のところ昏倒中。 「一応、僕が確認してきましょうか」 石凪が出入口の確認へと向かう。 「出口――か」奇野は何となく思った疑問を口にした。「なあ、なんでこいつは外に逃げなかったんだろうな」 「……?」 首を傾げる子荻。 奇野はさらに言う。 「扉を封鎖したのがこいつなら、こいつ自身は自由に外に出る方法を確保してたってことだろ? いくらなんでもあれだけ追い込まれれば、デッドスペースに逃げ込むとかよりも、外に逃げるほうを選ぶと思わないか?」 デッドスペースの位置を咄嗟にピックアップするくらい冷静な思考ができたのならば、当然その考えもあったはずだ。というか、三対一という状況を意識した時点で、逃げ道を確保しないのはやはり不自然さがある。 向こう見ずに好戦的な人間が相手だというのならまだ分かる。しかしこの相手の行動を思い返すと、むしろ慎重さや緻密さを感じる場合が多い。 なぜそこまで、奇野たちを仕留めることに終始したのか。 「逃げを選択できない理由が何かあったんじゃないでしょうか。あるいは、戦わざるを得ない理由が」 「いや、だからその理由を――」 考えて分かるはずもないか。 それこそこいつが起きてから聞けば分かることだ――と、奇野はまた思考を打ち切った。 「そうですね」子荻はいつのまにか、羽川から没収したと思しき日本刀を持って、品定めするように見ている。 「何にせよ、この方の意識が戻るまでは――――――――っ!」 刹那の油断。 ライフルから手を放し、刀に意識を向けたその瞬間を狙いすましたように、羽川は動いた。 倒れた体勢から一瞬にしての跳躍。肉食動物を思わせる機敏すぎる動き。 不意を突かれた子荻は、全身を使っての体当たりをまともに喰らい、壁ぎわへと吹っ飛ばされる。 「あ……っ!」 交差の瞬間、羽川はしっかりと斬刀『鈍』を奪い返している。 そこから先の動きを、奇野は目で追いきれない。 斬刀を片手に、出入口のある方向へと――出入口の確認に向かおうとしていた石凪萌太のいる方向へと、羽川は跳ぶ。左腕の弾痕から血がほとばしり、黒色の巫女装束が影のようにはためく。対照的に、抜き身の刀と見開かれた双眸が凶暴な白い光を放つ。 子荻がそうだったように、石凪にも油断があったのかもしれない――いや、そんな理由付けが不要と思えるくらいに、その動作は速く、躊躇がなかった。 背後からの殺気に対する反応が、わずかに遅れる。 振り返るのとほぼ同時、右腕の力だけで放たれた斬撃が石凪の胴体を逆袈裟に斬り上げる。 水面を斬ったかのように、それは滑らかな斬撃だった。 「――――! しま……っ!」 派手に血飛沫の舞う中、羽川は動きを止めない。 薙ぎ払った石凪には一瞥もくれず、外へ逃げるためか出口の扉へと一直線に走っていく。子荻はそれを目で追いながら立ち上がり、取り落としたライフルへと駆け寄る。 「奇野さん追って――って何でそんな遠くに隠れてるんですか!」 「や、腹の調子が急に――さっきのういろうが中ったのかも……」 「九割方食べた私は全然平気ですけど!」 逃げ足だけは一流だった。 目で追いきれないというか、追う気が最初からない。 子荻がようやくライフルを構え直し、発砲する。気が急いていたせいか、あるいは羽川が急に方向転換したためなのか、弾丸は狙いを外れて向こう側の壁へと被弾する。しかし命中こそしなかったものの、その一発はわずかに羽川の右腕を捕えていた。音速を超えるライフルの弾丸と衝撃波が腕の表皮と肉を浅く抉る。 「……っ!」 銃声の余韻に重なるように、かしゃん、と高い金属音が響く。右腕の鋭い激痛に、羽川が斬刀を取り落とした音だった。 その音が奇野たちの耳に届くころには、すでに羽川は視界から消えている。階段を上り、上の階へと再びフェイドアウトしていってしまった。 「…………は、」 速すぎる。 脱兎の如く、と表現するにふさわしい俊敏さだった。 「いや、俺が言うのも何だが……」 依然として隠れたままの奇野を放って、子荻が走る。まだ追うつもりなのかと思ったが、駆け寄った先は大量の鮮血の上に倒れ伏した石凪のもとだった。 屈みこみ、何かを確認するような仕草。この場合、確認の必要があるとは思えなかったが。 「駄目です。即死ですね」 予想通りの回答。 血まみれの死体を前に、子荻は口惜しげに表情を歪める。 それは当然、仲間を失ったことに対するものではない。 「迂濶でした……まさか、あんな余力が残っていたなんて……」 自分の思い通りに事が運ばなかったことに対する、不満の表情。 失意の策師は、失ったばかりの貴重な『駒』を名残惜しげに見下ろしていた。 【石凪萌太 死亡】 【残り 39名】 奇野は自分の置かれている現状に不満を抱き始めていた。不満というよりは不安といったほうが正確であるのかもしれないが。 石凪が殺されたことに対して、ではない。一度ならず二度までも、敵として狙った相手を仕留めそこねた子荻に対しての違和感と疑心。それが奇野の不安を掻き立てている主たる要因だった。 奇野は子荻を仲間として信用しているわけではもちろんない。最初の出会いの時から一貫して、いずれ敵となる相手の一人として警戒心を抱き続けている。しかし同時に、自分に代わって戦局を冷静に分析し、安全圏への道を示してくれる案内役、ナビゲーターとして信頼をおいている部分は少なからずあった。むしろ無意識下では、それは依存といえるくらい動かし難い信頼であったかもしれない。 きっかけはやはり、自分が殺されかけた原因となった子荻の采配だ。 自分が勝手に囮に使われたことで、その信頼に揺らぎが生じた。無意識下にあったものが意識上に浮かび上がり、疑念を感じる余地を生じさせた。 こいつは自分にとって、本当に有益なのか? こいつのゲームに対するスタンスは、果たして正しいものといえるのか? その疑問に、奇野は未だ答えを出せずにいる。 「…………」 子荻はしばらく忌々しげな雰囲気を醸しだしていたが、羽川が落としていった日本刀を拾いあげた途端急に押し黙り、刀を眺めたり石凪の斬殺死体を検分したりしていた。今はそのどちらも終えた様子で、手元のレーダーに沈黙と視線を落としている。奇野は所在なく、近くの壁に背を預けて立っていた。 「……第三棟のほうへ移動していきました。屋上まで逃げたようですね……」 羽川の動きを伝えているらしいが、奇野には答えようがない。相手は相当の重傷を負っている上、二つ目の武器もぎりぎり奪うことができた。しかしこちらも戦力をひとり失ったわけだから、総合的にはふりだりに戻ったといっていい状況だ。そもそも生かしたまま取り逃がしてしまった時点で水泡に帰した感は否めない。 「……もしかして、こうなることを予想して慎重になってたのか?」 「え?」 「や、何でもねえ……」 下手につつけば容易に爆ぜる。そんな爆発物のような人間は、奇野の属する世界では珍しいほうではない。それを見越しての慎重策だったのだとしたら、それは計算の深さとか、そういう次元の話ではない。 勘だ。 単純であるぶん、それはある意味計算高さより底知れず、恐ろしい。 「……こっから脱出するには、やっぱあの猫耳捕獲するっきゃないんだよな…………面倒くさっ」 そもそもこの密室があったからこそ面倒な真似をするはめになったのだ。面倒くさい。状況そのものがとことん面倒くさい。 何が原因でこんな状況に陥ってしまっているのか。 「何が原因でこんなことになってしまったんでしょうね」 「おめーだろ」速攻で突っ込んだ。ノータイムだった。「おまえが囮作戦とかって俺らに敵がいること黙って勝手に動いてたからこんなややこしいことになってんじゃねーか」 「……ごめんなさい」 謝られた。 謝るのかよ。 「でも奇野さん、忘れてないとは思いますけど、奇野さんを危機から救ったのは私ですよ?」 「ああ、おかげで囮として死なずに済んだわ」 助けられたときはありがたかったが、今では崖から突き落とした本人に引き上げられた心境だ。 「私に落ち度があったことは認めます。でも私が何も考えずに行動していると思われるのは心外です。私は私なりにこのゲームの本分に則って、生き残るための策を考えて実行に移したまでです。いろいろと収穫もあったし、いいじゃないですか」 よくないと思う。収穫もなにも、今一番欲しいのはここからの脱出方法だ。 大体収穫って何よ。そのしょぼい日本刀か? 「それに」奇野の心中を知ってか知らずか、自信ありげな表情で振り返る子荻。「脱出方法なら、見つかったかもしれませんよ」 「は?」 子荻は右手を、そして右手に持ったそれを、目の前に掲げる。 奇野がしょぼいと評した、日本刀。 鞘をわずかにずらし、その刀身の一部を外気にさらす。その輝きを見て、もう一度、自信ありげな笑みを浮かべた。 「渡りに舟、というやつですかね」 閉ざされた扉を前に、子荻はまず呼吸を整えるように軽く息を吐き、そして鞘に納まった刀を腰本に構える。扉に対して半身に、軽い前傾姿勢で。 居合の構えだ。 奇野は少し離れて、その様子を傍観する。 数秒の静寂。 静止から一転、刀が高速で鞘から抜き放たれる。空振りかと思うほどに滑らかな一閃。さらに返す刀で二発、三発と連続で放たれる斬撃。 ひゅんひゅんと、空を斬る音だけが続く。 ほどなくして、刀の動きが止まる。刀身をゆっくりと鞘に納め、その鞘の先で扉の真ん中あたりをとん、と軽く押した。 その一押しで扉は開いた。否、破壊された。 積木のようにガラガラと音をたてて崩れ落ち、扉はただの瓦礫と化した。 開きましたよ、みたいな表情でこちらを見る子荻。 「……散々動いて、最終的にこんな力業かよ…………」 頭脳派が聞いて呆れる。 「密室は開いてこそ意味があるのですよ」 「それ、そういう意味じゃなくね?」 崩れ落ちた扉の破片を見て、奇野が言う。 「――しかしまあ、結構な腕前じゃねーの。こんなぶ厚い扉を、よくもあんな豆腐みてーにスパスパと。石川五ェ門かよお前は」 「いえ、これは刀のほうが凄いんですよ。本当に斬鉄剣並の業物ですよ、これ。恐ろしいくらいの切れ味です。綱糸でも斬れそうなくらい――」 久しぶりの――といっても数十分程度だが――扉の外は、もうはっきりと景色が見えるくらいに明るさを増していた。 「一応聞いておきますけど」子荻が奇野に問いかける。「これでここから外に出ることは可能になりました。今すぐに他のエリアへ移動しますか? それともここに残って、あの巫女服の方と決着をつけますか?」 奇野は首を横に振りまくった。「あんな悪魔憑きみてーな奴、二度と関わりあいになりたくねえ……」 でしょうね、と子荻がうなずく。「不満は残りますが……あの状態なら放っておいても問題はないでしょう」 奇野は床に視線を落とす。大量の血によってそこかしこが真っ赤に染まった、荒々しい戦闘の跡。ほとんどは必殺の一太刀を受けた石凪の血だが、左腕の貫通痕をはじめ、身体のあちこちに銃創を負わされた羽川の血も少なからず混じっている。 あの傷は間違いなく重傷だ。今ごろ失血死しかけていてもおかしくはない。 だからこそ、それほどの重傷を負ってなおあそこまでの動きを見せたことが驚異に価するのだが。 そういうわけで、到着からわずか一時間そこそこで場所を移動する運びとなった。 石凪の死体は当然のように放置。デイパックだけはしっかり回収しておく。 「あ、その前に」と子荻が思い出したように言う。 「エレベーターの中に残してきたあの人形。あれも一応回収しておきたいのですけれど」 「あれ持ってくのかよ……まさか修理できるとか言う気じゃないだろうな」 「可能性はありますよ。そういう風に狙って撃って壊しましたから」 マジか。 「少しでも使えそうなものはなるだけ収集しておきましょう。――本当の闘いは、まだまだこれから先なんですから」 「へいへい……承知しましたよ、ライフル子さん」 なんかもう、完全になじんでいる感じだ。 『呪い名』である奇野よりも、この戦場に適応している気がする。 「てか俺、今回何の役にも立ってねーな……」 呪い名、一切呪わず。 エレベーターの方向へ歩いていく途中、奇野は何となく子荻から言われた言葉を思い出す。建物の外と屋上、二回繰り返して言われた台詞。 ――絶対に、私を疑うことをやめないでください――。 その言葉に対し、最初は何の考えも巡らせなかった。その結果といえるかどうかは分からないが、奇野はあっさり敵の罠にはまり、窮地に立たされた。だから奇野はその言葉を「相手がどんな形で裏をかいてくるか分からない」という警句として解釈した。することにした。 だがその言葉の先をもう少し深く考えれば、もうひとつ別の解釈ができることに、奇野の頭でも思い到ることができたかもしれない。 すなわち、「私を出し抜こうとしても無駄ですよ」――という、言外の威圧。 疑うことを止めるな。むしろ好きなだけ疑え。 疑って疑って、永久に疑い続けていればいい。 いくら疑っても、それは無駄なことだから――。 奇野がエレベーターのボタンを押す。日和号はエレベーターの中にあの状態のまま残している。エレベーターを一階まで下ろせば、わざわざ四階までいかなくとも回収できる。 幸いあれだけ暴れても壊れてはいないようで、エレベーターは正常に作動して下降してくる。 数秒のモーター音。 階表示のランプが1を示し、扉が両側へスライドする。 「あれ?」 エレベーターの中は空だった。 ライフルの弾痕と、抜けた天井の一部だけが残されている。 「…………あれ?」 今さらのように頭が痛む。 時計の針が、ちょうど6時を示そうとしていた。 【1日目 早朝 斜道卿壱郎研究施設 C-8】 【萩原子荻@戯言シリーズ】 [状態] 健康 [装備]、斬刀『鈍』@刀語シリーズ [道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1~3)、狙撃用ライフル@人間シリーズ(残弾80%) 、簡易レーダー(『生存者』の首輪に反応。同エリアにいる参加者の位置を示す)、ういろう(4/5) [思考] 基本 生き残るために、常に最善の策を考えておく。 1 「脱出」と「戦闘」、両方を視野にいれた上で思考・行動する。 2 情報収集を優先。特に参加者と首輪に関する情報がほしい。 3 奇野のことは「扱いやすい人間」と判断。 4 そろそろ、澄百合学園にも足を運んでみようか…… 【奇野頼知@戯言シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~2)、トンファー@人間シリーズ [思考] 基本 とりあえず生きることが優先。そのためには誰でも殺す。 1 戦闘に関しては子荻に頼る方向でいく。 2 『呪い名』としてのスキルが活かせる環境をはやく整えたい。 3 子荻に対する不信感増。そろそろ何か手を打っておくべきか…… ※奇野は哀川潤がゲームに参加していることを知っています。 【羽川翼@物語シリーズ】 [状態]左腕に貫通痕、全身にかすり傷、想操術による心神喪失状態 [装備]巫女装束@刀語シリーズ [道具]支給品一式、ランダム支給品1~2 [思考] 基本 ――(暴走中) ※羽川は斜道卿壱郎研究施設のどこかにいます。 ※今は想操術が発動していますが、不安定な状態です。 暴走状態がいつまで持続するかは後の書き手さんに任せます。 033← 033 →034 ← 追跡表 → ― 奇野頼知 ― ― 萩原子荻 ― ― 羽川翼 ―
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世界の終わり、正しくは始まり(中編) 「ところで」唐突に、声の調子が真剣なものに変わる。 「あなた、どうしてここにいるのかしら」 「………?」 どうして………? それは、ぼくが今一番したい質問なのだけれど。 「私と同じく、強制的に連れてこられてここにいるのかしら。それともまさか、自分から望んでここへ来たとか? 何をさせられるのか知った上で、この悪趣味な首輪の中に、自分の首を突っ込んだとか?」 「………」 あり得ない、とぼくは思う。少なくとも、ぼく自身は。 「別に、あり得ないことじゃないわよねえ」 しかし彼女は、そんな風に言う。 「大層な“ごほうび”も出るみたいだし、向こう見ずな人間が何匹釣り針に掛ったって、別に不思議ともなんとも思わないわ。欲にまみれた俗物たちの醜い蹴落とし合い。『見世物』としては最高の部類なんじゃないかしら。いつか読んだギャンブル漫画を思い出すわ」 「………」 欲するものがあるから、得られる機会があるから、そこへ手を伸ばす。 その手で奪うことになろうとも。逆に、何かを失うことになろうとも。 欲望は人を鈍磨させる。 ぐい、と、後頭部への圧力が増す。殴られた部分に、鈍痛がぶり返す。 「本当、吐き気がするわ」 まさしくそれは、吐き棄てるような口調だった。 「どうしてこう、次から次へと変な物ばっかり寄ってくるのかしら。普通にしていたいだけなのに、まともな人間でいたいだけなのに、それがいけない事? 殺し合え? 馬鹿じゃないの? 最後の一人になれ? まずあなたが死になさいよ。如何なる望みもくれてやる?」 そんなこと、いったい誰が望んだっていうのよ———。 絞り出すような声音で、彼女は言った。 「私を、私たちを巻き込まないでよ。もう沢山なのよ、こんなこと」 「………………」 それを、ぼくに言うのはお門違いだ。 ただの八つ当たりにしか、それはならない。 実際それは、八つ当たりのつもりで放った言葉だったのだろう。 他に言うことは無いとでもいうように、後ろからの声はぱたりと止んだ。無言の中に、二人分の足音だけが静かに続く。 無人の静寂とは、また別の種類の静寂。 ————。 しかし彼女は、わかっているのだろうか? 今この状況で、そんな言葉を言ったということが、一体どんな意味を持つのかということを。 もしも彼女が、生き残るつもりでいるというのなら、この悪夢から、生きて逃れたいというのなら——— たとえ相手が、通りすがりの脇役だったところで。 取るに足らない、場繋ぎ役の道化だったところで。 そんな言葉は、ここで吐くべきじゃあなかった。 「全くの同意見だね。笑えるくらいに吐き気がするし、滑稽なくらい馬鹿みたいだ。ただ君が思い浮かべたっていう漫画、多分ぼくも読んだことがあるやつだと思うけど、あれは名作だとぼくは思うね。あの緊迫した雰囲気は凡人に出せるようなものじゃない」 微かな動揺を背後から感じる——ことが可能なほど、ぼくは器用じゃない。 「『一杯の茶のためなら、世界なぞ滅んでもよい』——ドフトエフスキーだっけ? 人間の欲望ってまさにそんな感じだよね。身体は張るもので、命は懸けるもので、肉は斬らせるものだってね。一秒の幸福の得るために、永劫の世界でも紙クズ同然の扱い。大した等価交換だよ」 「ちょっと」 後頭部に、再び軽い衝撃。 「誰が喋っていいと許可したの? 勝手な行動はするなと、再三に渡って警告したはずよ」 「散々疑問符付きで話しかけておいて、返答すら許可しないって方がおかしいとぼくは思うけど。ぼくの話はそんなに警戒すべき要素なのかな。たとえ奴隷が相手だとしても、必要以上に自由を剥奪するのは、君自身のためとしても良くない」 確認はできないけれど、相手が苛立った表情をしているのが容易に想像できる。 「……口を開くだけならまだしも、減らず口まで許可するつもりはないわよ」 「軽口も教養の内だと思うけどね」 「……口で言ってもわからないみたいね」 敵意を一層、強烈に感じる。確認せずとも、声の調子だけで、はっきりとわかるくらいに。 「言葉が理解できないのだったら、鉛弾はどうかしら。そんなにご所望なら、引き金くらいいくらでも引いてあげるわよ。二発でも三発でも、あなたの口が大人しくなるまで」 後頭部への圧力は、中へめり込まんばかりに強くなっていた。本気で痛い。 「黙るつもりがないなら、本当に殺すわよ」 「無駄だよ」 容赦のない敵意(と痛み)にあてられながらも、平静を保った口調でぼくは言う。 「そんな脅し文句、ぼくには通じない。ぼくは既に、今のきみがぼくを殺すことができないことを絶対的に確信している。なぜならきみがその手に持って、ぼくの頭に突きつけ続けているそれは、拳銃の類なんかじゃないからだ」 ◆ ◆ ◆ 時代がかった町並みを通り過ぎ、ぼくたちは雑木林の中を歩いていた。林をふたつに分けるようにして一本の道がまっすぐ通っており、真上を見れば、木々に遮られることなく真っ暗な夜空を見ることができる。 こうして歩いていると妙な閉塞感を感じる。木々の間隔はまばらで、昼間であれば明るいと思えるくらいの林ではあったが、今は夜の闇のせいで、明かりのないトンネルの中を進んでいるような気分だった。 「『最初からすべてお見通し』——みたいな言い方になりそうでちょっと嫌だけど、おかしいと思っていたのは、きみが病院でぼくの背後から声をかけてきた、あの時からだった」 ぼくは前を向いたまま、独り言のように自分の後ろを歩く相手へと語りかける。顔の見えない、名前すら知らない相手と話すというのは、どうもやり辛い。 「きみはあの時、二つの音を発したね。きみの『動かないで』の声と、銃声一発。この場合、字面的に音と言うより声と言うべきかな? まあ、どっちでもいいんだけど」 冷徹な「Freeze」の声と、鋭くも乾いた破裂音。 「とにかくその二つの声を聞いたことによって、ぼくはきみが銃器の類を所持していると判断したわけだ」 あるいは、判断させられた——なのか。 ぼくは続ける。 「今更のようだけど、ぼくはあの時、きみが拳銃の類を構えているのをこの目で確認していない。ぼくが後ろを振り返らなかったから——否、きみが振り返らせなかったからだ。あの時から今に至るまで、ずっとね」 もっともあの薄暗い廊下だったら、離れた場所に立つ相手の持っている物なんて、ぱっと見ただけじゃわからなかっただろうけど。 「シュレディンガーじゃないけど、ぼくが目で見ていない以上、ぼくにとってきみが持っているのが拳銃の類でない可能性は存在する。ここまでは当然、可能性の話に過ぎない。ただそう考えた場合、あの時の一連の流れの中に、ある一つの事実を見出すことができる」 「回りくどい言い方はよしなさい。聞いててうざいわ」 苛立った声が、後ろから飛ぶ。 「推理小説の解答編みたいな形式、私は嫌いなの。無駄に演出的な順序立てして話したり、無駄に引き延ばしたような台詞をダラダラ何行も連ねたり。たいていの解答編は一ページもあればまとめ可能なんだから、あなたもそうなさい」 身も蓋も有りはしない。 回りくどいのは認めるけれど。 「まあ、努力はするよ………ともかく、もしきみがあの時に銃弾を発射したのだとしたら、銃声が聞こえたのはなんら不自然なことじゃない。ここで問題にされるべきは、聞こえなかった音のほうだ」 「聞こえなかった——ですって?」 “世界で唯一の音であるかのように、くっきりと響く残響音”。 足りない音が、あの場所にはひとつあった。 「銃火器の類は、派手な音を鳴らすのが特徴だ。ただし、音を出すのは何も銃本体だけじゃない。あの時足りなかった音ってのは、弾丸が鳴らす音の方さ」 銃を発砲すれば、当然のこと銃弾が飛ぶ。 発射音の後には、着弾音、または跳弾音が聞こえなければおかしい。 あの閉めきった建物の中で発砲すれば、弾丸は必ず、ぼくからそう遠くない所に着弾する。コンクリの壁やリノリウムの床に当たれば、それなりの音が響くはず。ガラスや調度品に命中すればいわずもがなだ。 「空砲が発射されたって可能性もあるけれど、このゲームの主旨から言って、あっち側がわざわざ空砲入りの銃を支給するってのはどうしても腑に落ちない。きみに銃弾を改造するスキルがあったとしても、空砲を撃たなきゃならない理由なんてない」 淡々と、あくまで淡々と。 ぼくは、言葉を紡いでゆく。 「あの時、弾丸は発射されていなかった。推理ってわけじゃないから、あくまで妥当性の問題ではあるけれど、きみが初めから銃器を所持していないと考えるのは妥当じゃないとは言えない」 「だから回りくどいのよ、この演説家気取り」 相変わらず、声は冷たいながらも苛々としていた。今まで黙って聞いてくれただけ良かったのかもしれない。 相変わらず、声は冷たいながらも苛々としていた。今まで黙って聞いてくれただけ良かったのかもしれない。 「あなた、大事なとこを無視してるじゃない。銃声じゃあないっていうなら、最初の音は何だっていうつもり?」 最初の音というのは、あの破裂音のことだろう。 「さあね、君の持ち物を把握してる訳じゃないから、そこは何とも言えない所だけど。銃声に代わる音を出せるような道具——例えば火薬玉みたいな物を使ったのかもしれないし、きみが自分の声で作った音だったのかもしれない」 そういう声帯模写って聞いたことあるし。 「無茶苦茶ね。暴論と言い換えてもいいわ」 「そのへんは、きみの暴言とおあいこってことで」 「自惚れないで。私の暴言は、暴徒や暴動や暴風雨よりもずっと暴力値が高いのよ」 ………暴力値? 「じゃあ今のぼくが持つ情報だけを用いて、あの破裂音の正体を推測してみようか」 ぼくは続ける。 「きみの持ち物は把握してないと言ったけど、ぼく自身の持ち物は既に確認してる。あれを見て思ったのは、このデイパックが全員に与えられているとしたら、中身はみんな一緒なのか、それともみんなバラバラなのかってことだ」 その辺の説明が全然されていなかったから、杜撰だと思ったのだけれど。 「今、きみの荷物と比較できればいいんだけれど、仮にきみが教えてくれたところで、それを鵜呑みにするのはあまりにナンセンスだ。だからやっぱり明確なことは言えないけれど、ある程度、推測することくらいはできる。 ぼくの持っている荷物のなかで、注目すべきは——注目しないべきは、といった方がいいのかな。生き残り——サバイバルという言葉を、今ぼくたちがいる状況を表す言葉として用いるなら、地図、食糧、コンパス、時計、懐中電灯。 この5つは、言うなれば『あって当たり前』の物として類別することができるんじゃないかな。普通のキャンプですら必要必需品のアイテムだしね。むしろこれじゃ足りないくらいだ。 病院から出てすぐ、きみはぼくのデイパックからこの懐中電灯を取ってぼくに渡したね。最初からそれが入ってるのを知ってるみたいに。多分きみも、自分の荷物に懐中電灯があったからぼくのデイパックにもそれが入っていると予想していたんじゃないのかい? で、この中で銃火器の代わりになりそうな道具はあるかな——まあ、ないね。武器になりそうな物すらないね——じゃあ、銃声の代わりになりそうな物は? 建物の中で反響するくらいの破裂音を奏でることができそうな物は? ここで、今度こそ注目すべきものがひとつある。 懐中電灯だ。 なんの変哲もない、コンビニでも売ってるような普通の懐中電灯だね。つまり普通に考えるなら、この懐中電灯の中には電池が組み込まれているはずだ。 これ以上勿体ぶるのは忍びないから、この際はっきり言ってしまおう。 きみは乾電池を破裂させることで、その破裂音を銃声の代わりにしたんだ。 乾電池を火にくべると——つまり加熱することで、乾電池は爆発する。他ならぬきみ自身が言っていたことだ。熱源をどうやって確保したのかはわからないけど、あそこは病院だし、可燃物とかは容易に確保できそうな気がするね。 そういえば、乾電池とスチールウールを組み合わせることで火を起こすことができるとか聞いたことあったかな。まあ、その辺は完全に想像の域かな。熱を加えてから破裂するまでのタイムラグが問題だけれど、熱の強さ次第では、破裂するまでの時間を限りなく短縮できる。 ぼくにあの音を聞かせれば取りあえずは良かったんだろうし、あの時はたまたまきみが『動くな』と言った直後に爆発したのかもしれない———とまあ、今のぼくに推測できるのはこのくらいかな。 ついでに言うなら、きみがわざわざぼくのデイパックから懐中電灯を取って渡したのは、自分の懐中電灯が使えなかった状態だったからじゃないかな。電池が入っていなければ、ただの筒だからね、 そしてぼくの後頭部に押し当てられているこれが、正にその『ただの筒』となった、懐中電灯だったとしたら———」 「………………」 「………………」 「………………」 「………………」 しばらくの間、沈黙が場を支配する。土を踏む音だけが二人分、一定間隔を保って続く。 「………勘違いしないでよね」 数十秒に渡る沈黙の後、ようやくといった感じで彼女は声を発する。 「別に、あなたのために今まで黙って聴いてたわけじゃないんだからね………あまりに馬鹿馬鹿し過ぎて、口を挟む気にもならなかっただけなんだからね………」 脱力感全開の口調だった。 新ジャンル、脱力系ツンデレ。 「…さっき、推理小説の解答編みたく、って言ってた自分が馬鹿だったことを認めるわ……こんな糞っ滓みたいな推理、実際に小説に使ったら社会的に死刑よ」 「だから推理じゃないって」ぼくはなるべく相手を刺激しないように言う。「ただの戯言さ」 「そう、じゃあおあいにくさま。戯れるための言葉なんて、私はこれっぽっちも聞きたくはないの」 放たれる敵意に、殺意が混じったように感じた。それは単に、ぼく自身の危機感から生じた感覚だったのかもしれないけれど。 「本当に言葉じゃわからないみたいね——もういいわ。これ以上そんな妄言を撒き散らすつもりなら、とっとと」 「報告ならいいんだろう?」 「は?」 ここで主導権を渡すわけにはいかない。 ここからが、本当のぼくのターンなのだから———。 「何かあったら即座に報告するよう、ぼくに言ったのはきみだろ? 実はさっきから、報告すべき事態が生じているんだけれど」 「………何よ、さっさと言いなさい」 「実はね——」 ざり、と。 靴の裏で、地面の感触を確かめるように擦る。 「ぼくの後ろ——つまりきみの後ろでもあるわけだけど、誰かいる。さっきからずっと、ぼくらを付けてきている」 ◆ ◆ ◆ 彼女がぼくから注意をそらしたかどうかも、思わず後ろを振り返ったかどうかも、前を向いたままのぼくからは確認することはできない。 だから、これはほとんど賭けのようなものだった。 両膝を曲げ、両手を前に出し、身体を思いきり低く屈める。地面に這いつくばるような低姿勢のまま、後ろ回し蹴りのようにして、背後の相手に足払いを繰り出す。 小さな悲鳴とともに、ようやく視界に捉えることができた人影が、地面に仰向けに転がる。素早く立ち上がって追撃を仕掛けようとするが、焦りのせいかバランスを崩してしまい、立ち上がるのが一瞬遅れる。 その一瞬の間に、相手は体勢を整えようと、両手両足の力を使って後方へと飛び退る。林の中へ逃げ込む算段か。 中途半端な姿勢のまま、ぼくは懐中電灯を相手へと向ける。突然の光を受け、相手が眩しそうに目を細めるのが、闇の中に浮かび上がるようにして見えた。 その隙にぼくは立ち上がり、一気に相手との距離を詰める。右手に持った黒い塊のような何かを、相手がこちらへと向けてくる。ぼくは懐中電灯を武器に、その右手を思いきり薙ぎ払った。 「………っ!」 相手の右手が、あさっての方向へと弾き飛ばされる。抑圧したような悲鳴が漏れたのが聞こえたが、それでも手に持った何かを離さなかったのは、流石と言うべき所なのだろうか。 懐中電灯を離し、硬直した相手の右手首を捕える。そのまま押し倒すように地面へ組み伏せようと、左手に力を込める。 「………!? う………っわ!!」 刹那、自分の身体が空中へと浮かぶのを感じた。視界がぐるりと反転し、逆さまの木々が暗闇のなかに見える。戸惑う暇もなく、ぼくは頭を地面に向けたまま落下する。 「———ぐあっ!!」 頭から着地することは何とか避けたが、肩と背中をしこたま地面へ打ち付ける。衝撃が脳を効果的に揺さぶる。 巴投げ———! ぐらぐらと揺れる頭で、どうにか理解する。ぼくが相手の右手を掴んだ時、空いた状態の左手は、既にぼくの襟元を捕えにかかっていたのだろう。 畜生。 ぼくは小さく毒づく。素人じゃない。闘い慣れてる。 地面の上を転がりながら林の中へと逃げ込み、なんとか体勢を整えて相手に向き直る。相手の方も既に起き上がって、少し離れた所から、こちらをじっと見つめている。 両目は既に、暗闇に順応している。ぼくはようやく、相手の姿をはっきりと目に捉えることができた。 声でわかった通り、女の子。 服装は、ブラウスにプリーツスカート。明かりがないためよくは見えないが、その簡素な雰囲気から、学校の制服のようにも見える。 思っていたより、ずっとたおやかで華奢に見える体躯。背もそれほど高くはない。ぼくと同じくらいか。 そして、右手に持った何か。 否——もう「何か」ではない。ぼくにはそれが何なのか、明確に理解できている。 突如、その黒い塊から閃光が放たれる。鼓膜を掻き乱す不快な音とともに、稲妻のようにほとばしる蒼白い閃光。 冗談のように全身が粟立つ。いや、もう冗談では済まない。 ぼくにとっては、ある意味拳銃よりも驚異に値する代物。 「スタンガン——か」 ぼくは思わず声に出して言う。それが、まったく意味のない行為だと知りながら。 あれが今までずっと、ぼくの後頭部へと押し当てられていたわけだ。余裕ぶって講釈かましてた自分を馬鹿らしく感じる。 相手の右手が、再びこちらへと向けられる。 そして、全身から放たれる敵意。 先程まで背中で受けていた敵意を、ぼくは真正面から受け止める。 敵意。 敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意。 敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意! 今までのそれとは、まるで比べ物にならない。 敵意だけでは恐怖に足りないなんて、とんだ戯言だった。ここまで研ぎ澄まされた敵意、中途半端な殺意よりよっぽど恐怖に値する。 じり、と、少女がこちらへ一歩踏み出す。 こちらから仕掛けた時点で、既に話し合いの機会は失われたも同然だった。奇襲をかけて主導権を握り、なんとか説き伏せるつもりでいたのだが———失敗した。 少女の双眸は、さながら獲物を狩る虎だった。 虎視眈々。言葉として填りすぎだ。 「ったく……結局こうなるのかよ………!」 デイパックを肩から外し、地面へと投げ落とす。相手の背中は既に空いているようだった。先手を取られた気分で、ぼくは臨戦体勢をとる。 こちらは徒手、あちらには凶器。それだけで既に、決定的とも言える開きだ。 でも、こちらに勝算がないわけではない。 膠着を解き、相手が先に攻撃体勢へと移る。 右手を向けたまま、こちらへ飛びかかってくる少女。ぼくは咄嗟にバックステップで後方へと下がる——かのように見せかけ、さりげなく足に引っ掛けておいたデイパックを、蹴り込むようにして相手へと飛ばす。 足による投擲。当然それは命中精度に欠けるもので、デイパックは少女の右脇を抜けるような軌道で飛んでいったが、相手はそれに少なからず動揺したらしく、両手で身体をかばうような姿勢になる。 右手が引っ込んだその隙に、跳躍するように地面を蹴って相手へと接近。突き出されるスタンガンを仰向けに倒れるように避けながら、スライディング気味に蹴りを繰り出す。 回避と攻撃の複合。 しかし一度足払いをくらっているせいか、ぎりぎりの所で回避される。ぼくの頭上を飛び越えるようにしての強引な回避。結局地面へ転がったようだが、うまいこと受け身をとったようで、即座にこちらへ向き直る。 やはり一筋縄ではいかない。ぼくも即座に起き上がり、続けて攻撃を仕掛けようとする。 「………がっ!?」 顔面に激痛が走る。右目の下辺りに、何かがぶつかったような感覚。何か投げつけられたか、と、意外に冷静な頭で思う。 地面にぼとりと落ちたそれを見ると、さっきぼくが投げ捨てた懐中電灯だった。起き上がり様に拾っていたらしい。人のことは言えないが、油断のならない真似をする。 まずい——脳が焦りを訴える。投擲により隙を作ってからの攻撃。その点で、奇しくもぼくと相手の戦略は共通していた。 違うのは、投擲により生じた隙の大きさ。顔面に衝撃を受け、反射的に目を閉じてしまっている状態。この状況下で、それは永遠にも匹敵する隙。 そしてもうひとつ。 相手にとって、ぼくに一撃でも叩き込むことができれば、この勝負は決まる。素手のぼくとは、一撃の殺傷力が違う。 ここへきて、護身用というオチもあるまい。 一撃必殺。 スタンガン。 「く………ああぁ!!」 目を開くより先に、ぼくは右側へ向けて力の限り跳躍した。飛んだ先に木が立っていたら、もろに頭から激突していた形だったが、幸いぼくの身体が味わったのは、地面との衝突による衝撃だけだった。 顔を向けると、さっきまでぼくが立っていた場所にスタンガンを突き出している少女が見えた。本気で際どい所だったらしい。 有無を言わさず、少女が追撃をかけてくる。倒れている状態のぼくへ容赦なく振るわれるスタンガン。それを回避しつつ、何とか起き上がろうとする。 しかし相手はそれを許さなかった。スタンガンに気を取られている隙に、強烈なローキックを足首に見舞われる。ぼくは三度倒されて、地面との再会を果たす。どうやらぼくは、このパターンがよほどお気に入りのようだ。 仰向けに倒れたぼくを、毒牙を携えたような瞳で見下ろしてくる少女。スタンガンが構えられる。いつかの情景が脳裏にフラッシュバック。 どうする、考えろ。状況を打開しろ。見下ろされるのはこれで何度目だ? その時は何を相手にしていたのだっけ。鉈? ナイフ? 拳銃? いや拳銃は違う。あの時上から拳銃を構えてたのはぼくの方だ。確か無様にかわされてしまったのだっけ。あれはどうやって——— ぶん、と。 スタンガンを持った右手が、顔面へ真っ直ぐに降り下ろされる。 眼前に迫る、蒼白い閃光。 「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 ぼくは左腕を、大きく弧を描くようにして振りかざした。上半身の力だけをフルに使い、振り下ろされる右腕に対し、横薙ぎの掌底を叩き込む。 「く———うっ!」 軌道をずらされた右腕の一撃は、ぼくの頭部の右脇へと突き刺さる。紙一重。そのまま相手の右腕を掴み、渾身の力で引き倒す。 しかし相手も只では転ばない。倒れ様に、ぼくの顔面に蹴りを打ち込んでくる。防御が間に合わず、もろに喰らってしまう。 「か………は………!」 身体を引くことで衝撃を軽減することはできたが、そのぶん大きく吹っ飛ばされてしまう。本当、今日は色々と飛ぶ日だ。 痺れる頭をどうにか制御し、立ち上がる。よし、とりあえず危機は回避した。まだいける、まだいけるぞ、ぼく。 蹴撃が思いのほか効いた風を装って、ぼくはよろよろと近くの木にもたれかかる。それを見て、勝機を得たとばかりに突っ込んでくる少女。 フェンシングの剣のように突き出されるスタンガン。 その一撃は、今度は空を切らなかった。 スタンガンの先端が、ぼくのジャケットへぐさりと突き刺さる。 飛び散る火花。ほとばしる閃光。煙を上げて焼け焦げるジャケット。 そして——— 結果焼け焦げたのは、ぼくのジャケットだけだった。 「………くっ!!」 少女の焦ったような声。彼女がスタンガンを突き出してくると同時に、ぼくは自分のジャケットを、スタンガンめがけて投擲していた。 それは防御の意味もあったが、もうひとつ、広げられたジャケットを暗幕として使う、という目的もあった。 今の一撃によって、彼女は放電時の閃光を、暗闇に慣れた状態の両目で至近距離からもろに受けた形になったはずだ。対してぼくの方は、大きく広げられたジャケットに遮られ、閃光が届くことはない。 狂わされた視覚、ジャケットに覆われたスタンガン。 その隙はもはや、永遠にも等しい。 ぼくは背後の木を反動に使い、一足飛びに距離を詰める。しかし少女は退かない。絡んだジャケットごと、右手を前に突き出してくる。 しかしその攻撃は、まるで方向の定まらない一撃。 捨て身の一撃というには、あまりにも温い。 突き出される右手へ、叩き下ろすように手刀を放つ。がくん、と右手が崩れ落ち、ジャケットが地面にはらりと落ちる。現れた少女の右手は、空だった。 ぼくの両手が、少女の手首をふたつ同時に捉える。 投げ技を仕掛ける隙は与えない。飛びかかった勢いそのままに、全身を使って体当たりをかます。相手のバランスが後ろへ崩れたところを狙い、一気に両手に力を込め、叩き付けるようにして地面へと押し倒す。 打ち付けた両腕から、鈍い衝撃が全身ヘと伝わる。だが掴んだ両手は離さない。 かふ、と、苦しげに息を吐く音が少女の口から聞こえる。 それが終了の音だった。 林の中に、再び静寂が戻ってくる。 呼吸が乱れているのを今更のように自覚。酸素が足りないせいか、先程の衝撃が効いているせいか、頭がいい具合に揺れている。睡魔とも錯覚できそうな疲労感。 少女のほうも、同じように息を荒くしている。しかしその表情に浮かんでいるのは、不気味なくらいの冷静さだった。 そして、敵意。 その表情からは、想像もつかないくらいの敵意。スタンガンの閃光も真っ青の敵意。 この状態で、まだ敵意を収めるつもりがないのか………。 呆れるより先に感心できる。 「………屈辱だわ」 互いに呼吸が落ち着いてきた頃、少女は溜め息とともに呟いた。 「こんな背景の端っこに立ってそうな、通行人Zみたいな男にやられるなんて——この一幕だけで、自分の重要度が極端に下がった思いよ」 通行人Zて。 強そうだなおい。 「殺すがいいわ、殺すがいいのよ。そして人気投票の結果を見て己の行為を悔いなさい。人気上位キャラを殺すことがどういう意味を持つのか、その身で存分に味わうがいいわ」 「………何のことかよくわからないけど」 ぼくは彼女に応じる。 「一応、さっきのきみの質問には答えておくよ。ぼくもきみと同じく、強制的に参加させられたクチさ。自分から参加なんて冗談じゃない。しばらくは、病院のベッドの上で暮らす予定だったのに」 「だから何? 同じ境遇にいるから心中を察しろとでも言うの? 辛いのはよくわかる、仕方なく殺すのはわかってるから、恨むつもりはない——とでも言ってほしいの?」 冷笑を浮かべながら言う少女。 「それとも、殺す以外の選択肢を画策でもしてるのかしら。今度は妄想じゃなく、本当に手籠めにしてみる?」 「ふん」 ぼくは軽く鼻を鳴らす。余裕ぶって見せたつもりだったが、様になっていたかどうかはわからない。 「選択肢がないのも、困りものだとは思うけれど」 ぼくは、少女から手を離した。 「何かを選ぶのって、あんまり好きじゃないんだよ」 少女は動かない。そのままの姿勢で、こちらを見上げている。 ぼくはゆっくりと立ち上がる。 「きみに明確な目的があるっていうんなら、あのまま黙って従ってても別に良かったんだ。奴隷の真似事でも、遮蔽物の真似事でも、何だってね」 真似事は道化の役割だからね。 そう言ってぼくは数歩後ろへと下がり、木の幹に背中を預けつつ、地面に腰を下ろした。 「今だって、きみの分まで選択権を握るつもりなんて、ぼくにはないよ」 「………よく言うわ」 少女は言う。 「派手に抵抗しておいて、よくそんなことを堂々と言えるわね。あんなによく喋る道化なんて見たことないわよ」 「きみがあんなことを言うからいけないんだよ。ぼくが黙っていたように、きみだって、あんな余計なことを言うべきじゃあなかった」 ——そんなこと、一体だれが望んだっていうのよ。 「生き残りたければ、きみは口先だけでも殺人者に徹するべきだったんだ。殺人鬼になるべきだった。殺し屋になるべきだった。最悪に、なろうとすべきだった」 ——私を、私達を巻き込まないでよ。 ——もう沢山なのよ、こんなこと。 「そんな、『どこにでもいるような普通の女の子』みたいな、『日常から非日常へ放り出された不憫な少女』みたいな台詞を軽々しく吐いていたら、この闘いを生き抜いていくことなんて、間違いなくできないんだよ」 ましてや、吐いた相手がぼくだったなら——。 沢山だというのなら、巻き込まれたくないと言うのなら——— 出会った時点で、ぼくを殺しておけばよかったのだ。 「逃げるのもいい。ぼくを殺すのもいい。何もしないのも選択肢の内だ。ただしどれを選んだにせよ、今のきみじゃあ、遅かれ早かれ確実に死ぬ。それをただ伝えたかっただけさ」 言いたいことはすべて言った、とばかりに、ぼくは嘆息し、沈黙する。 「………………」 相手も沈黙を続けていたが、しばらくして「………本当によく回る舌ね」と、今度は少女のほうが嘆息した。 「あなた、むかつくわ」 ぼくはそれに対し、嘆息しながら肩をすくめる。「よく言われるよ」 少女は嘆息しながら言う。「次に私があなたの後ろに立った時は、首筋を喰いちぎられる時だと思いなさい。精々背後に怯えているがいいわ」 ぼくは嘆息しながら言う。「そのへんは、信じる心で何とかするさ」 まるで、素直じゃない子供同士の喧嘩の後の仲直りのようだなと、嘆息まじりにぼくは思った。 014← 014 →014 ← 追跡表 → ― 戯言遣い ― ― 戦場ヶ原ひたぎ ―
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15話 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげら……き?……げらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 暗闇の中、 地図で言うE-5にある尾張城の近く………… そこに、笑い声が響いていた。 哄笑、 そう言うに相応しい笑い声、 辺り一帯を呑み込もうとしているかの様に、 凶暴で、獰猛で、それでいて虚ろな笑い声が………… しかし、 まるで雑音が混じっているような、 まるで錆び付いているような、 まるでどこまでも空虚、 そんな、何とも言えない様な声で、 橙色なる種、想影真心。 人類の最終と言われる存在が、 笑っていた。 ただ、 オレンジ色の髪を振り乱しながら、 笑っていた。 片手に、 一本の抜き身の黒い刀を持ちながら、 笑っていた。 狂気に染まっているかの様に、 笑っていた。 尾張城、 終わりの城の城門の上、 オレンジ色の最終、 想影真心が笑っていた。 原因は一本の刀、 四季崎記紀が作った千本の中の一本、 完成形変体刀十二本の内で、 『毒気の強さ』に主眼が置かれて作られた刀。 名前は、 毒刀『鍍』 普段は禍々しい色の鞘に収められた、 大きく反った鍔のない黒刀だが、 今は鞘がない状態で、 橙色なる種、 想影真心の右手にしっかりと握られていた。 毒刀『鍍』を持った者は、 刀の毒、四季崎記紀の魂に蝕まれる。 最終だろうと最初だろうと最強だろうと最弱だろうと最悪だろうと最善だろうと、 一切関係なく乗っ取られる。 毒刀『鍍』、 それを持っている想影真心もまた、 刀の毒に毒されていた。 完全に毒されたとは言えないが、 おそらく、既に正気の欠片も残っていないだろう。 「げらげらげら……しき?げらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげ……しきざ……げらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 笑い続ける想影真心。 そのオレンジ色の目に見えているのは何か? 狂気に満たされている様な 空虚で虚ろな眼で、 一体どこを見ているのか? それとも、 実際は未だに正気を残しているのか? だとしたら何か刀の毒を打ち破る策はあるのか? もっとも、 ただ虚しく笑い声が辺りに響くだけで、 誰も現れそうに無い………… 不意に城門を降り、 走り出した人類最終、 終わりの城を後に残して、 哄笑を後に引き連れながら、 風を切り裂きながら、 走る。 目的は殺戮か? 目的は救済か? 唯一無二の最終は、 どこに向かって走るのか? 欠陥製品、 人類最弱、いーちゃんの居る所か? それとも、 紅い請負人、 人類最強、哀川潤の居る所か? それとも、 狐面の男、 人類最悪、西東天の居る所か? それとも…… それとも………… それとも……………… そして、 城を走り去った人類最終。 後に残った尾張城は、 静かに建っているだけだった………… 何事も無かったかのように、 ただそこに静かに建っているだけだった………… 既に誰か居た跡はない。 城門の前に、 一個の禍々しい色の鞘が残されているだけで、 そこで何があったかを語る物は、 何一つとしてなかった………… 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げら…………き崎?……げらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげら……きき……げらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げら、しき…………げらげらげらげらげらげらげらげらげら」 どこかに向けて走り続ける人類最終、 そのオレンジ色の目には何が映っているのか? 彼女を救える者も殺せる者も……………… まだ、彼女の前に現れそうに無い。 【1日目 深夜 E-5から移動中】 【想影真心@戯言シリーズ】 [状態] 猛毒刀与により狂気 [装備] 毒刀『鍍』(猛毒刀与発動中)@刀語シリーズ [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 不明 1 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげら……しき……げらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげら……きき……げらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげら、しき…………げらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら ※何処に向かっているかは、後の作者さんにお任せします。 ※ネコソギラジカルで哀川潤に負けたしばらく後です。 ※刀の毒が回りきった場合、四季崎記紀に乗っ取られるかは後の作者さんにお任せします。 014← 015 →016 ← 追跡表 → ― 想影真心 ー